安田峰俊

強力な習近平政権のもとで景気のいい新政策が唱えられたことで、経済・政治・軍事の各方面で中国の海外進出は加速し、世界における中国のプレゼンスは大幅に上昇した。中国の有償資金援助を受けた発展途上国が、いわゆる「債務の罠」に陥ったことも報じられているが、これらの当事者を含めて、多くの国で(日本人が想像するほどには)対中感情は悪化していない。 第三世界諸国を中心に、中国に強い好感を持つ国は少なからず存在した。大部分の先進国での評判も悪くなかった。中国を強く嫌っているのは、日本やベトナムなど、直接的な政治的摩擦や領土問題などを抱えるごく少数の国にとどまっていた。 ―――これが、おおむね二〇一八年ごろまでの世界の姿だった。 世界が大きく変わりはじめたのはそれ以降だ。 二〇一八年から米中貿易摩擦が深刻化するなかでアメリカの対中警戒心が表面化し、ファーウェイなど中国系IT企業に対するパージがおこなわれた。また、新疆ウイグル自治区の少数民族弾圧が深刻な人権問題として世界的に認識されはじめた。 そして二〇一九年にコロナ禍が世界を大混乱に陥れたことで、西側先進国を中心にコロナ発生国である中国に対する不信感が決定的になった。初期対応の不透明性を非難した他国に対して、中国の外交官らが揃って乱暴で挑発的な対応(戦狼外交)を取ったこともいっそう評判を悪くした。